大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行コ)130号 判決

東京都品川区東大井六丁目一四番二号

控訴人

遠藤富佐江

東京都港区高輪三丁目一三番二二号

被控訴人

品川税務署長 須藤孝一

右訴訟代理人弁護士

上野至

右指定代理人

田部井敏雄

齋藤春治

長谷川貢一

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が平成三年三月一一日付けでした控訴人の昭和六二年分の所得税の更正のうち納付すべき税額一九二万七三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文一と同旨の判決を求めた。

二  当事者の事実の主張は次のとおり当審における主張を付加するほかは原判決中の事実摘示のとおりであり、証拠の関係は原審及び当審の証拠目録記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。

1  当審における控訴人の主張

(一)  甲第一号証の交換契約を原因として竹内重人から控訴人に所有権移転登記をした際に、法務局は来庁した竹内重人本人から直接意思確認をしており、右契約の内容は真実である。

(二)  竹内重人と日英興産との間の売買契約書の印紙が剥がされており、同契約が解除されたことが明らかである。これに従って竹内重人が税務申告することは考えられない。

(三)  竹内重人が日英興産から代金を受け取ったとする領収書は竹内以外の人により但し書と宛て名が記入され、また、最終支払金額と銀行に預けられた金額とが異なり、疑問がある。

2  控訴人の右主張に対する被控訴人の認否

控訴人の右主張はいずれも争う。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく棄却べきものと判断する。その理由は次の1のとおり原判決書を改め、2のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決書の記載を改めるもの

(一)  原判決辞書八枚目裏末行の「末尾の締結年月日の記載もなく、」の次に「印紙も貼られていないし、」を加える。

(二)  原判決書一〇枚目裏四行目の「昭和六二年分の総所得金額及びこれに対する所得税額」を「昭和六二年分の総所得金額、これに対する所得控除の合計額及び所得税額」に改める。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

(一)  法務局による竹内重人の意思確認について

弁論の全趣旨により平成六年八月二四日当時の東京法務局港出張所の書類綴りの写真であることの認められる甲第一三号証によれば、昭和六二年二月一〇日交換を原因として竹内重人から控訴人に所有権移転登記の真正がなされた際に、法務局は来庁した竹内重人本人から登記申請意思を確認したことが認められる。

しかし、右確認は、登記済証が添付されていない場合に、登記義務者の登記申請意思を確認するために行われるものであって、登記原因とされた契約内容の真否を確認するためのものではないから(登記官は登記原因の真否を調査する権限もない。)、同人の確認があったからといって、控訴人主張の交換契約が真実成立したことの証拠となるものではない。のみならず、原判決の認定するように既に日英興産に売り渡してしまった後に、妻のミツエを通じて日英から控訴人との交換した形式をとることへの協力を求められてこれを承諾している竹内重人が、右確認の際に異議をのべないのはむしろ当然であり(中間省略登記とみることができ法的にも問題は少ない。)、真実竹内重人と控訴人との間に控訴人主張の交換契約がなされたことを証するものとは到底いい難い。控訴人の主張は採用できない。

(二)  印紙の剥離について

原本の存在と成立に争いのない乙第八号証によれば、竹内重人と日英興産との間の売買契約書の印紙が剥がされていることを認めることができる。

しかし、原審証人寺沢守弘の証言により成立の認められる乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、右印紙を剥がしたのは、日英興産の藤田が別に作成し直した契約書に張り替えたに過ぎず、売買契約を解除した趣旨でないことが明らかであり、また、税務申告も印紙の貼付された契約書の写しを添付してなされてたことが窺われる。控訴人のこれらの点の主張も採用できない。

(三)  領収書の記載について

原本の存在及び成立に争いのない乙第一九号証の一ないし四並びに第二〇号証によれば、竹内重人名義の領収書の但し書きと宛て名は竹内以外の者の手になるものと認められるが、そのようなことはままあることであり、署名押印が竹内重人の意思によることが争いない以上右書面の証拠価値を減ずるものではない。

また、原本の存在と成立に争いのない甲第一六号証並びに弁論の全趣旨により原本の存在の成立の認められる乙第九号証の一ないし四によれば、最終支払金額は九六〇〇万円であるのに銀行に預けられた金額は九三五〇万円であることが認められるが、前掲乙第六号証及び原審証人寺沢守弘の証言によれば、二五〇万円は預かり保証金と清算して処理されたものであることが認められ、何らの疑問もない。控訴人のこの点の主張も採用できない。

二  以上のとおりであるから、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 田村洋三 裁判官 曽我大三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例